マズローの欲求段階/ハーズバーグの二要因論 ―求職者が求めているもの―

求職者が求めているもの

物価高の状況下で従業員の生活を守り、人材を確保するために、賃上げが必要。多くの経営者が悩んでいます。ではいくら払えば優秀な人が熱心に働いてくれるのか?これも悩ましく、興味深い質問です。しかしこの質問に答えることは不可能に思われます。なぜなら高い報酬を提示することで人材の確保は容易になるかもしれませんが、その分熱心に働く場合とそうでない場合があるからです。お金の計算は必要だがそれだけでは不十分なのです。ではその熱量の差はどこから生まれるのか?熱量の差を生み出す要素。つまり人は何を求めて働くのか?について考えてきましょう。”人はパンのみにて生きるにあらず”:聖書の有名な言葉は、人は物質的に満たされるのみならず精神的にも満たされて生きることを求める存在であることを示唆します。そして私たちは、モチベーションに関する研究から、人が働く際に求めている要素を把握し、熱心な職場づくりのための仕組みや働きかけのためのヒントを見出すことができます。

マズローの欲求段階

人間の欲求は5つの段階に分類され、低次の欲求が満たされる高次の欲求が顕在化する(①→⑤)という順序があります。高次の欲求が満たされないからといって、低次の欲求をより満たそうとはせず、欲求の移り変わりが不可逆的だとしています。

●5つの段階
生理的欲求:生命維持に必要な基本的な欲求。食事、水、空気、睡眠など
安全の欲求:身体的・心理的な安全を求める欲求。住居の確保、健康、仕事の安定、法的保護など
社会的欲求:社会的なつながりを求める欲求。家族や友人との関係、愛情、所属するコミュニティとの結びつきなど
尊重の欲求:自尊心や他者からの尊敬を求める欲求。達成感、自己肯定感、他者からの認識や評価など
自己実現の欲求:自己の潜在能力を最大限に発揮し、自己実現を図る欲求。創造性の追求、自己成長、個人的な使命の達成など

価値観や文化の違いなどにより影響を受け、必ずしもこの優先順位にならない場合がありますが、人間の行動や動機を理解するための重要な枠組みとしてビジネスや個人の成長に幅広く応用されています。

ハーズバーグの二要因論

従業員のモチベーションに影響を与える要因を「衛生要因」と「動機付け要因」の2つに分けて説明します。

●衛生要因:不満足感を防ぐ要因
・職場の環境や給与、人間関係、会社の方針、上司の監督、労働条件など
・これらの要因が不足すると、従業員の不満足感が高まり、モチベーションが低下する。ただし、衛生要因が充足されても、必ずしも満足感が高まるわけではなく、従業員の積極的態度を引き出すためにはほとんど効果がないとされている。

●動機付け要因:満足感を生み出し、モチベーションを高める要因
・仕事そのものや達成感、認知、責任、昇進、成長機会など
・これらの要因が満たされると、従業員の仕事への満足感が高まり、積極的に取り組むようになる。

従業員の満足度向上と不満の解消を図る際の指針となるため、職場環境の改善やモチベーション管理に幅広く活用されています。

低次の欲求が満たされる程度にはお金(必要に応じた物価上昇への対応等)が必要。でもそれが満たされると人は他者との関わりの中で満たされたいと思う。そしてそれらが満たされると、もっと成長したい・もっと力を発揮したいと思う。現代の社会に照らすと、見通しの難しい不確実な未来に備えてある程度のお金が前提と思う一方で、物や情報が溢れる世の中だからこそ良い人間関係の中で認められて成長していけることが大事。そんな求職者像がイメージされます。実際に様々なアンケートでも、働き先を検討したり決めたりするうえで重視する要素として、自分の能力が活かせる・やりたい・やりがいなどは給料や労働条件を上回ります。ではこのような高次の欲求を満たすためにはどうすればよいのか?そこで重要な要素が動機付け要因です。多くの企業は衛生要因の充実に注力しがちです。しかし現代の日本の求職者の視点に立って考えれば、それだけでは不十分であり動機付け要因の充実にも注力すべきです。動機付け要因を上手に扱って積極性を引き出すことは、生産性を高めて業績を向上させることにつながります。それがさらなる各要因充実のための原資にもなる。自社でこのモチベーションによる好循環が起こるイメージができ、同時に経営者の悩みが少しでも晴れてくることを願っています。